Wednesday, March 5, 2025

エマとカレンの冒険

エマとカレンの冒険


女の子がサッカーなんて!

なんど、そういわれてきただろう。

でも、今日確かに、むくわれる。

 

エマはそう信じている。

高校3年生のエマ。

地方大会の決勝。相手は高校全国大会連続優勝の強豪。

 

ここで勝てば、すべてがむくわれる。

そう感じている。

 

「あと1点、あと1点とれば勝てるんだ!」

1つ年下のチームメート、カレンの声がきこえる。

 

☆☆☆









(回想シーン)

1年前、エマはとんでもないことをしてしまった。

自分でも、信じられないくらいひどいことを

友達のアンナにしてしまった。

 

長い期間かけてアンナが描いた絵を、

エマは破いてしまった。



どうしてこんなことをしてしまったのかわからない。

理由にならないけど、

とってもアンナがうらやましかったんだと思う。

 

その時、

エマは自分がやりたいことがまるでわからなくなっていた。

好きで始めたはずのサッカー。


それがいつのまにかエマを苦しめるものになっていた。

 

勝つことだけが、目的になって全然つまらない。

自分のしたいプレーもゆるされない。

チームの勝利だけが優先される。

 

やめたかった。

でも、お母さんがそれを許してくれなかった。

 

学生時代はバレーの有名選手だったというお母さん。

 

「自分からやりはじめたことは、卒業するまで続けなさい。」


「せっかく始めたんだからプロを目指すつもりでがんばりなさい。」

 

それが口癖だった。

 

ああ、思い出した。

なんで、1年前、アンナにひどいことをしてしまったのか。

その理由。

 

思い出したくなくて、ずっと抑えつけていたんだ。

 

あの日の放課後、

私はデートをするはずだったんだ。

 

ずっと好きだった男の子にはじめて誘われた。


うれしくて、うれしくて朝から洋服の準備をしてた。


学校から帰ってきたらすぐに着替えて出かけようと思って

1番素敵な服を、すぐに着れるように準備してた。


それが間違いだった。

 

部屋にはいってきたお母さんに、

見つけられてしまったんだった。

 

「今日、サッカーの練習でしょ!こんな服準備してどうしたの!」

 

いきなり叱られた。

どんな風に返事をしたか、覚えてもいない。

 

だって、私のお気に入りの服は

目の前で、ずたずたに引き裂かれたから。

 

「こんなものがあるから、練習に身が入らないんだ!」

そんな言葉を投げつけられたっけ。

 

 

だからって、私がアンナにしたことは

決して許されるものではない。それはわかっている。

でも、すぐには謝ることができなかった。

 











☆☆☆









(試合のシーン)

 

「あと1点、とるぞ!」

カレンがみんなに檄を飛ばす。

 

 

エマがチームにさそってお願いしてようやく

はいってくれたカレン。

 

カレンは運動神経抜群だけど

サッカーは未経験だった。

 

試合中、それも終盤なのに

エマはカレンに出会った日のことを思い出してた。

 

☆☆☆









(回想シーン)

 

1年前のあの日

もちろんデートはうまくいかなかった。

 

 

夕暮れの中、エマは、1人で海についた。

そしてゆっくりと腰をおろした。

涙がほほを流れた。

 

「もうクラブやめようかな」そうつぶやいた。

 

そっと靴を脱いで、乾いた砂をふんだ。

 

いつのまにか目的が変わってしまった。



好きで始めたはずなのに。

楽しかったはずなのに。

楽しむことが消えていった。

 

いつからだろう。勝つことが何よりも大切なことに

なってしまった。

 



確かに勝たなくては、つまらない。

それは、わかる。


でも、勝つことだけがすべてなのは、どうなんだろう。

 

チームに貢献できない。

そんな理由でたくさんのチームメイトが

やめていった。


小学校からの幼馴染も。

あの子がさそってくれたから、そしてサッカーの楽しさを教えてくれたからエマもサッカーをはじめたのに。

 

もってきた昔のアルバム、そっと開いてみる。 

その時、歌が聞こえた。



海で、歌の練習をしていたのは、カレンだった。


カレンの歌をきいた時、

エマの中で何かが溶けた気がした。

心を詰まらせていた重荷のようなものが。

 

不思議な歌だった。

 

1つ後輩で話したことのないのカレンに話しかけた。

どんな歌なのか、どこにいけばきけるのか。

それを教えてもらった。

 

数週間後、

歌が聴けるというお店に行って驚いた。



歌っているグループのメンバーの1人は、

アンナだった。

 

その翌日、

エマは勇気をだして、アンナに謝った。

 

許されることではないけど、

この日を境に、生まれ変わろうと思った。

 

☆☆☆








(試合のシーン)

 

「あと1点、あと1点とれば勝てるんだ!」

カレンの声がきこえる。

 

そう、1点取れば勝てる。残り時間3分。

もうロスタイムに入っている。

3分で1点取れば、勝てる。

 

でも、同点で延長になったら

ほぼ100%勝ち目はない。

 

エマのチームのキーパーは

素人同然だから。

 

レギュラーのキーパーは

さっきケガをして退場してしまった。


代わりのキーパーは、

ほとんど練習をしていないキーパー。

 

強豪相手では、延長になったら

いくらでも点をとられてしまうだろう。

 

☆☆☆









(回想シーン)

 

カレンは歌うことが大好きで小さい頃から合唱団に

入っていた。

 

でも、ある時、合唱団をやめた。

そして、歌うことそのものもやめた。

 

いつの間にか目的が変わっていたから。

楽しむことから勝つことに、目的が変えられてた。



「学校の名誉のために、合唱団の名誉のために」

うんざりだった。

歌うことが楽しくなくなった。

 

 

でも、カレンは、ある1つの歌に出会った。

そして、歌うことの楽しさを思い出すことができた。

 

もしも、歌うことが楽しくなくなるのなら、

私は勝負に勝てなくてもいいし、

歌が上手くならなくてもいい。

私は自分にとって一番大事なものを取り戻した。

カレンは、そう思った。

 

そしてカレンはまた、真剣に歌い始めた。

そして、新しく歌いたい曲に出会った。



その曲の名前はMy voice is beautiful

この曲を、カレンが歌っているのを

エマは偶然、海で聴いた。

それが、2人の出会いだった。

 

☆☆☆









(試合のシーン)

 

いつもなら得点につながっている

エマからのパスが

カレンのシュートにつながるパターン。


それが今日はことごとくとめられている。

 

シュートまでいくことができない。

エマのパスがカットされてしまう。

 

エマはまたあの日のことを思い出した。

 

確かに勝たなくては、つまらない。

それは、わかる。

でも、勝つことだけがすべてなのは、どうなんだろう。

 

試合を楽しもう。

そんな言葉もよく耳にするようになった。

 

それもわかる気がする。

でも、勝たなくては楽しくない。

楽しむってどういうことなんだろう。

 

☆☆☆

エマのチームにチャンスが来た。

全員が相手のゴールに向かって走り出す。

「これが最後のチャンスだ。」

 

エマのパスからのカレンのシュート。

これしかない気もする。

でも、今日はことごとくとめられている。

 

勝ちたい。

でも、失敗したらどうしよう。

 

体に緊張が走る。

 

どっちがときめくかで決めよう。

エマはそう思った。

 

エマのパスからのカレンのシュート。

それで勝つのがときめくのか。

 

自分でシュートを決めるのがときめくのか。

 

ほかのメンバーに

パスして決めてもらうのがときめくのか。




わかった気がした。

 

☆☆☆

この流れでエマのチームのメンバーは

誰一人ミスをしなかった。



練習した通り、エマにボールが渡ってくる。


どうする?



もう、答えはでている。

 

エマは走り続けた。

「失敗したらどうしよう。」

この気持ちに勝つことが

楽しむことなんだ。

 

「失敗したらどうしよう。」

この気持ちにふりまわされなければ

どのプレイを選んでも正解だ。

 

 

失敗を怖がること。

それで自分らしくいられなくなること。

このことこそが、失敗なんだ。

 

急にまわりの景色が

はっきり見え始めた。

 

ゴールまでの道筋がはっきり見えた気がした。

 

カレンならおいつくはずだ。

イメージ通りのゴールまでの道筋。

 

まだそこにカレンは走りついていないけど

合図もナシに

エマはそこにパスを出した。

 










 

次の瞬間、

カレンがその場所に走りこんでいるのが見えた。

カレンの右足にすいこまれるようにボールが流れ込む。

 

カレンは思い切りシュートした。

 

そしてボールは勢いよくゴールネットをゆらした。

 

カレンとエマのチームが勝利した瞬間だった。

 

 (完)

 

 


Written by Shun Shinning

Illustrated by Serori












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